それは、とある田舎町の駅前に長年看板を出している老舗「そばの清水屋」の物語である。
老いた夫婦が、コツコツと営んできたその店には、ある種の風格が漂う。
お盆まっただ中の暑い暑い日である。
仲の良い11人の家族が昼食をしに入店した。
その入店30分前に、
「今日のお昼は何を食べようか?」
「天丼が食べたい!」
「よーし、じゃあ天丼ならそば屋さんだね。そば屋さんを探して・・・」
「◯◯そば屋は?」
「去年閉店しちゃったよ」
「××そば屋は?」
「大将が死んじゃって味が落ちたよ」
などの会話の末、やっと辿り着いた「清水屋」。
早速、メニューを広げて、
「天重セット!」
「私も」
「俺も」
で、9人前オーダー。
「すいません、今、天ぷらやってないんです。そのメニュー表は古いやつでして。新しいメニューからお選び下さい。」
全員テンション超下がりまくり。
「ではカツ重セット9人前お願いします。」
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「すいません、カツが3枚しかないので、6人前は別の注文に替えて下さいませんか。」
超、超、超テンション急降下。
「じゃあ、親子重セットを6人前でお願いします。」
オーダーが決まりました。
注文してから20分後、やっとお茶が運ばれました。
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30分。
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40分。
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50分。
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60分、その間、一人、また一人、トイレに立ちます。
一番天丼を食べたがってた者が騒ぎだします。
「ラーメンにすれば良かった。どこどこのラーメンは美味しかった。」など大きな声でイライラ感を募らせます。
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70分、まずはカツ重セット3人前が運ばれます。
「固い!」
誰ともなく口にそばを運んだ者、口にごはんを運んだ者から聞こえます。
そうか、ごはんが無くて新しく炊いたのか。
でも時間がなくて、むらしてないわけ?
そばは急いで早めにゆで上げちゃったわけ?
期待が持てずに親子重セットが15分後に到着。
「さあ食べよう!」
でも完食した者は9人中2人。
30分かけてゆっくり食べた人から、「そばがやっと軟らかくなったよ。」の声。